注視すべきは感染者数ではなく重篤者数や死亡者数 —すでにピークアウトの可能性も

2020年3月11日、世界保健機関(WHO)が、新型コロナウイルス「COVID-19」の感染拡大について「パンデミック」と認定した。感染者は110カ国で確認され、感染者は計約11万人、死者は4千人超に上る。世界的な大流行が「パンデミック」の定義であれば、もっと早い時期の宣言でもよかったように思うが、東京オリンピック・パラリンピックの開催にも影響を与えることに配慮したのかも知れない。

そもそも、この新型コロナウイルスは、日本にとってどれほど怖い感染症なのか。ご存じのようにPCR検査体制は未整備だったので、今後検査体制が整うにしたがって感染者数は増える。しかし、感染者の増加は、無症状のものや軽症で回復するものが多いこともわかってきているので、過剰に怖がるべきではないし、それによって危機を煽るべきではない。やはり正しく怖がるべき、きちんとリスクとして評価すべきは、肺炎が重篤化して人工呼吸器が必要であったり、集中治療室に入院している者の数や死亡者数である。

3月10日現在の厚労省発表のクルーズ船を除いた国内の感染者(PCR検査陽性者)は513人、人工呼吸器や集中治療室に入院している者31人、死亡者は9人である。ここには、チャーター便での帰国者も含まれている。WHOはCOVID-19の現時点(3/4修正、全年齢平均)の致死率を3.4%と発表している。致死率3.4%の場合、日本の死亡者9人に相当する感染者数は265人なので、検査体制が未整備とはいえ、すでにそれ以上の感染者は把握できていることになる。国内における致死率は3月10日現在の感染者数と死亡数で算出すれば1.75%であり、最近は1%から2%の間を揺れ動いている。今後、検査体制が整備され感染者数が増えたとしても、死亡者が増えなければ、それは致死率がさらに低下することを意味する。ちなみにクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」におけるPCR検査陽性は696人、死亡者は7人なので、致死率は1.0%。これは毎年の季節性インフルエンザと変わらない。ここまで致死率を抑え込めれば、新型コロナウイルス「COVID-19」に日本は打ち勝ったと言えるのではないだろうか。

クルーズ船の感染状況について国立感染症研究所が興味深いデータを提供している。2月6日から17日におけるクルーズ船乗員乗客の発症日別報告数の推移である。これを見ると、乗客と乗員2つのクラスターがあり、ともに1週間程度の間にピークを迎え、その後1週間で終息に向かうというサイクルが読み取れる。これは、専門家が乗船しての感染抑制策下でのものでるが、乗客乗員3711人という統計的には十分なサンプル数での調査結果である。実際の市中での感染においても拡大・終息のサイクルは2週間程度の比較的短い期間である可能性を示唆していると思われる。

実際に中国の新規感染者数の推移データを見ても、湖北省以外では1月20日頃から約2週間でピークアウトし、その後2週間で終息に向かっている。武漢を含む湖北省においてもピークは高く拡大期間は長引いたが2月末には終息に向かっている。

出典:JETROビジネス短信「新型コロナウイルス、中国ではピークアウト、専門家は4月までの感染抑制に言及」
   2020年3月3日

こうした拡大・終息サイクルを念頭において日本国内の新規感染者数報告の数字を見ると、下図のように、3月7日(土)、8日(日)頃にピークアウトした可能性もあると考えられる。ただし、今後は検査体制が整備されるに連れて、しばらく間急速に感染者報告が増えていくことが予想される。この増加により危機を煽る報道も増加すると思われる。前述したように、検査数増加に伴うその間の感染者の増加を過剰に怖がるべきではない。注視すべきは前述したように、重篤者や死亡者の数がそれに連れてどの程度増加していくかである。

検査数の増加とともに医療機関に感染者が押しかけ、院内感染等が重なって医療崩壊が起こった場合には、十分な治療が重篤者や死亡者が増えていくことになる。一時的に感染者数が増えても、死亡者数が感染者数の3%を超えないようであれば、それほど心配には及ばない。できれば2%以下、いや1%程度に抑えて日本の医療水準の高さを示してほしいと考える。

現時点では楽観も悲観もできないが、3月19日にはすでにピークアウトして終息に向かっているとの新型コロナウイルス感染症対策本部や政府の発表が聞けることを期待したい。3月20日にはギリシャから聖火が被災地、宮城県の航空自衛隊松島基地に到着する。

2020年3月12日 久米谷 弘光