パンデミック、インフォデミックを超えて —目指すはワンヘルス

残念ながら3月19日の対策本部の新型コロナウイルス感染のピークアウト宣言はなく、聖火は20日にアテネから宮城に届いたものの、24日、東京五輪・パラリンピックは延期になり、26日からの聖火リレーは見送りとなった。パンデミックの勢いは強く、26日午前4時現在、世界182の国・地域で計44万7030人余りの感染者数、2万599人の死亡者数が確認されている。もはや開催国の日本だけが感染を抑え込んでも、世界各国のアスリートが日本に渡航できないという事態になってまった。

改めて最近の厚労省の国内発生状況の発表を見てみると、3月25日12:00現在、感染者は1,193名、死亡者は43名。感染者中の死亡者率は3.6%と、3%を超えている。クルーズ船でも下船後の死亡者数が3名増えて10名となった。

3月25日12:00現在の国内の新型コロナウイルス感染状況

資料:厚生労働省報道発表

最近発表され始めた感染動向のグラフを見ると、やはり3月の2~3週あたりに感染者発生のピークがあることがわかる。特に発症週別有症者数のグラフを見るとより明確である。しかし、東京都台東区の永寿総合病院で院内感染が発生するなど、ここに来て東京都の感染者数の増加が懸念され、さらなるピークが現れないとは限らない。小池都知事は25日夜「感染爆発の重大局面」として、週末、夜間の外出自粛を要請した。

ミラノ、パリ、ニューヨークの閑散としたニュース映像に比べ、東京の繁華街は一斉休校後の春休みのせいもあって、日常的なにぎわいに溢れていて、平和の有難さを感じる。しかし、政府は改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく政府対策本部を週内にも設置するとしている。小池都知事も「ロックダウン(都市の封鎖)」を口にしている。いま急速に感染者が増えている米国では、すでに軍が市中に出て感染者対策に懸命になっている。日本においても状況次第では同じことが起こりかねない。

しかし、パンデミックやインフォデミックは、行動統制や言論統制で打ち勝てる訳ではない。 突然の行動統制や言論統制は人々や社会の不安やストレスを高め、人間や社会の生態系が本来持っている感染症に対する抵抗力や免疫力を弱らせる。WHOのテドロス・アドノム事務局長は「検査、検査、検査」と世界に要請したが、世界の現状は逆に検査で発覚した病院に押し寄せることで医療崩壊を招いている。安倍首相は、「ピークをできるだけ遅らせる」と言っているが、これは逆である、すでに迎えている3月上中旬のピークを最後に、この後にピークを発生させない努力が必要である。小池都知事は「ロックダウン」を口にしているが、ロックダウンで東京都の社会生態系が維持できると考えるのはあまりに愚かである。

ここに来て東京都の1日40人以上の感染者の発生は確かに増えているが、検査体制の充実とともに検査の陽性数が増えるのは当然ともいえる。もちろん永寿総合病院での院内感染は気になるが、感染者が通院ないし入院していれば院内感染が発生する確率をゼロにすることはできない。近年肺炎で死亡する人は国内で約10~12万人。その中での新型コロナウイルス感染症での死亡者数43人をどのように評価するか。専門家やメディアは責任を持って冷静に評価していただきたい。

あえて言えばいま必要なのは「ケア、ケア、ケア」である。人々や社会の生態系が本来持っている感染症に対する抵抗力や免疫力を最大限発揮させるためのケアをあらゆるところで高める努力である。子どもたちも高齢者も、複雑で有機的な社会の生態系の中でその健康を維持している。その社会の生態系の機能を停止させかねない、安易な行動統制や言論統制は厳に慎む必要がある。

東京五輪の年に憲法改正を目論んでいた安倍首相は緊急非常事態宣言で自衛隊をもっと感染症対策で活用させたいのかも知れない。ニューヨークやパリの状況を見て小池都知事もロックダウンをしてみたい誘惑を感じているのかも知れない。しかし、それは日本の価値、東京五輪の価値を確実に貶めると自覚すべきである。

パンデミック、インフォデミックと危機感を煽り、行動統制、言論統制をしても社会や心身の免疫力は上がらない。今後、気候変動とともに感染症は次々と猛威を振るうことが予想される。パンデミックに打ち勝つためには、地球の生態系全体の健全さを保つこと、エコロジカル・ヘルスが重要だ。動物由来の感染症対策の世界ではこれを「One Health」と呼ぶ。この難局に打ち勝ち東京五輪・パラリンピックを開催するために、目指すべきは「One Health」だ。