真夏のCOVID-19感染拡大—そして安倍政権の終焉

首都圏1都3県と北海道を含め全国の緊急事態宣言が解除された5月25日の感染者数(PCR検査陽性者数)は20人、累積で16,706人だった。それから2カ月足らずの7月末には、感染者数は連日1,000人を超えるようになり、累積の感染者数は8月11日には5万人、21日には6万人を超えた。

一方、緊急事態宣言解除の5月25日に累積で864人を数えていた死亡者数は、解除日以降8月上旬まで概ね1日当たり10人未満で推移し、7月22日には1000人を超えたが8月28日現在で1,254人に踏みとどまっている。しかし、8月中旬以降は再び1日当たり10人以上の死亡者数を数えている。感染者における重症者数の増加に伴い再び増加の予兆を無視する訳にはいかない。

1日当たりの感染者数の増加はどうやら7月31日の1,574人がピークだったようだが、減少のペースは鈍く、まだまだwith コロナの時期は続きそうである。緊急事態宣言の解除から3カ月が過ぎた現時点で、いくつかの疑問を整理しておこうと思う。

資料:厚生労働省新型コロナウイルス感染症オープンデータ

緊急事態宣言解除は早すぎたのか?

そもそも、次の感染拡大の波の襲来は秋、冬だと予測した専門家が多かったのに、なぜこの真夏に感染拡大が起こっているのか。緊急事態解除は早すぎたのか。

5月4日に緊急事態宣言の延長が決められたとき、私は勝手に緊急事態宣言解除の条件を推測した。「全国で1日の感染者100人未満、死亡者数10人未満が2週間以上続き、医療現場の人員、病床、マスクや防護服等の物資のひっ迫状況が解消されること」というものだった。日々発表される感染者数と死亡者数を基準にするのが、人々のリスク認知や自主的対策行動を促す意味で効果的だと考えた。特に死亡者数は医療のひっ迫状況を明確に反映する指標になる。2週間というのはCOVID-19の潜伏期間やその頃までの感染状況がそのくらいの周期で局面が変わる傾向が見られたからである。

全国で緊急事態が解除された5月25日、感染者数は20人と少なかったが、死亡者数は16人と10人を超えていた。死亡者数10人未満が2週間続くのは6月12日まで待たなければならなかった。

では、やはり緊急事態宣言解除は早すぎたのか。私は必ずしもそうは思わない。

当時を想い起せば、確かに死亡者数が減らないのは気になっていたが、これ以上外出自粛が続けば経済破綻やうつ病で自殺者がCOVID-19による死亡者を上回るのではないかと感じていた。緊急事態宣言による行動範囲、行動時間の制限が、逆に郊外住宅地等で三密を増やしかねない状況も見られた。その後8月上旬まで死亡者数が概ね10人未満で推移したことを見ると、一時期の医療ひっ迫は解消されていたと見てもよいだろう。緊急事態宣言解除のタイミングで事業を再開し、なんとか倒産を免れた事業者も少なくなかったように思う。

ただし、問題はやはり専門家や感染予防機関に高温多湿の夏場に感染拡大は起こらないという油断があったことではないかと思う。しかし、その予想は外れ、ウイルスは高温多湿の中で広がった。本来は宣言解除直後からオフィスや飲食店などの感染予防対策の指導を強化し、より有効な感染制御をするための簡易な抗原・抗体検査キットの普及やPCR検査体制の強化を図るべきだった。しかし、PCR検査がコンスタントに1日1万件を超えるのは7月中旬、2万件を超えるのは8月まで待たなければならなかった。活動性の高い20代、30代の感染者はPCR検査数の増加に先行して増え、相変わらず後追いのクラスター対策のためにPCR検査が使われる状況に変わりなかった。

安倍政権の政府は本来やるべきことをせず、感染ピークの7月末に、あれほど評判の悪かった「アベノマスク」を再度全国配布すると言い出す始末。さすがに世論の反発で断念した。

そして、明らかに感染を全国に広げたのが『Go Toトラベルキャンペーン』だ、感染拡大の真っ最中の東京都を除外してまで強行し、大阪、愛知、沖縄など各地に緊急事態宣言を出させることとなった。

現在の感染拡大は「第2波」なのか ?

安倍政権の政府は、現在の感染拡大をなかなか「第2波」とは認めずに『Go Toトラベルキャンペーン』を強行した。死亡者の大量発生などがない限り「第2波」とは認めず、経済再生を優先するという考えだろうと推測する。

私は、別な意味でこれを「第2波」と呼ぶことに疑問を感じる。

COVID-19の最初の波は、やはり中国武漢由来の2~3月の「武漢型」コロナの波ではなかったか。そして4~5月の「欧米型」コロナの波が「第2波」、この7月末ピークの波は海外渡航禁止後、緊急事態宣言解除後の東京で急速に拡大した「東京型」コロナによる「第3波」と呼ぶべきではないかと思う。

4~5月の「欧米型」コロナウイルスは、2~3月の「武漢型」コロナウイルスよりも感染力が強く、感染者の致死率も高かった。そして、この7月末ピークの「東京型」コロナウイルスは若者を中心に感染力がさらに強いが、致死率は高くない。

累計の死亡者数を累計の感染者数で割った死亡率を見てみると、2~3月の「武漢型」の時は3%台、4~5月の「欧米型」感染拡大では5%を超え、これが6月まで続くが、7月の「東京型」感染拡大に伴い急速に低下して、この8月後半には2%以下となってる。

こうした新型コロナウイルスの変異、特徴に合わせた対策を取るためにも、現在の流行は「第3波」ととらえ、次の変異も想定して対策を考えていくべきだろうと思う。

ウイルスの「弱毒化」が進み、無症状者が感染を広げ、PCR検査陰性者に後遺症が残るといった事態になると、ケアすべき患者をどう定義すべきかいう根本的な疑問もわいてくる。

専門家の分科会は秋冬の新型インフルエンザとの同時流行は想定しているようだが、新型コロナウイルス自体の次の変異をどのように想定しているのだろうか。

いずれにせよ世界はCOVID-19の緊急事態の最中にあることに変わりがない。8月30日の感染者は2500万人、死者は84万人にのぼる。WHO(世界保健機構)による1月30日の緊急事態宣言(「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」)や3月11日のパンデミック宣言はまだ一度も解除されていない。

個人的には日本においても緊急事態が続いていると思っている。また勝手に緊急事態解除の基準を設定すると、1日の死者数10人未満は変わらないが、感染者数はPCR検査数の増加やウイルスの弱毒化を反映させて、全国で300人未満、東京都で100人未満というところか。この基準より感染者数、死者数が下回らない限り、自己防衛のため在宅ワーク、リモートミーティングを基本にするつもりだ。

安倍政権の政策を継続させてはいけない

8月29日、突然安倍首相が辞意を表明した。持病の潰瘍性大腸炎の再発が理由だ。先月中ごろから体調に異変が生じ、今月上旬に再発が確認されたという。自身の「アベノマスク」が大きなものに変わったのもその頃だったような気がする。

コロナ対策の迷走ぶりはもちろん、安倍政権の政策はこの機会に刷新してもらいたい。戦後レジームからの脱却を唱え、安保法制で「戦前化」を招き、平和憲法の改悪を図り、被爆国でありながら核兵器禁止条約に反対し、辺野古基地の工事を強行して、沖縄県民の声を踏みにじっている。原発や石炭火力に固執し、再生可能エネルギーや気候変動対策は遅れに遅れている。アベノミクスは財政の健全性を劣化させながら、人々の経済格差を広げ、ヘイトスピーチを蔓延させ、民主的な熟議を尽くさず、しばしば数による強行採決で政策を押し切った。森友・加計・桜を見る会問題など政治の私物化・不正、それを許す忖度・情報隠しなど政界、官界に倫理欠如を蔓延させ、最後まで説明責任は果たさなかった。憲政史上最長の7年8カ月の長期政権の間に日本社会が受けた損傷はあまりに大きい。

首相の側近やおともだちに、安倍政権の政策を継続させてはいけない。コロナ対策も東京五輪・パラリンピック対策も彼らに任せては、また多くの予算をだまし取られる気がしてしまう。我が国の財力にも民力にも、今それほどの余裕はない。自由民主党員の良心と党の真価が問われる時だが、すでにこの党にそんなことを期待しても無駄か。