冬眠のすすめーGo To 医療崩壊を食い止めるために

2020年大晦日、東京都の新型コロナウイルスの1日の感染者は1,000人を超えた。前日の944人から一挙に393人増の1,337人となった。PCR検査や集計作業は年末も休みなしで、むしろ検査機関の年末の検査結果が集中したようだ。

東京都では昨年4月7日に、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡とともにいち早く緊急事態宣言が出され、5月25日の解除も千葉、埼玉、神奈川、北海道とともに最後となった。7月には感染拡大によって22日に始まった「Go To トラベル」からは除外された。東京で「Go Toトラベル」がスタートしたのは、「Go To イート」がスタートした10月1日だった。

10月1日の東京都の感染者数は234人だったので、この3カ月で5倍以上に増えた。「Go To イベント」も「Go To 商店街」も10月中旬から全国一斉にスタートした。このGo Toキャンペーンが感染拡大に影響していることは間違いない。特に「会食」の機会は感染リスクが高いと専門家は指摘している。

医療崩壊の危機が叫ばれる中で、菅首相がGo Toキャンペーンを止めずに、多人数での会食を続けていたことは、政権支持率の急落を招いた。 Go To トラベルの停止が決まったのは12月半ば。全国一斉の停止は12月28日~1月11日の期間である。結果、感染者数は大晦日まで増え続けた。Go Toキャンペーンの先には、「Go To医療崩壊」が迫っている。

Go To キャンペーンは春まで凍結を

上のグラフは、全国の1日ごとの感染者数、死亡者数、累計の死亡者数、そして累計の死亡者数を感染者数で除した死亡率(致死率)を表したものである。

大晦日の全国の感染者数は4,622人、死亡者数は46人だった。グラフは通常「第1波」と呼ばれる緊急事態宣言直前の3月30日から始めているが、実質的にはこの前に中国武漢発のウイルスが上陸した「第O波」があり、それによって3月24日東京五輪は延期された。第1波は欧米系のウイルスの上陸によるものと思われる。

1日あたりの感染者数の推移は第1波、第2波、第3波の波型をきれいに描いている。第3波はまだ頂点に達しているかどうかわからない。第1波、第2波の波形が教えることは、10月1日から3カ月かけて上昇してきた波は、いま頂点に達したとしても10月1日の水準まで戻るためには3カ月以上かかるということである。

この大晦日をピークにして3カ月かけて感染を抑え込み、今年度中には開始されるワクチン接種の力も借りて春には感染を収束させなければ東京五輪には間に合わない。

グラフではほとんど目立たない1日あたりの死亡者数も12月には50人超が9日を数え、累計の死亡者数は急角度で上昇している。累計死亡者数は大晦日時点で3,459人である。

死亡者数を感染者数で除した死亡率(致死率)は、第1波後に一時5%を超えた。その後、ウイルスの変異による弱毒化と一定の治療方法の確立により第2波のピークを過ぎたころには2%を下回るまで低下した。第3波で医療崩壊の危機を再び迎えつつあるが、まだ1.5%前後を維持できているは、ウイルスが強毒化はしていないことと、保険医療現場の年末、年始休暇返上の努力によるものであろう。もし、この死亡率が上昇したならば、それは医療崩壊の始まりであり、たとえ上昇しなかったとしても他の疾病での死亡率を陰で増やすことになっているかも知れない。
 政府はGo To トラベルの期間を1月11日までとしているが、この時期に人の動きや会食にインセンティブを与えるなど気違い沙汰だ。人命を犠牲にした経済回復など誰も望んでいない。菅首相も小池知事も東京五輪・パラリンピックの開催を目指すなら、Go To キャンペーンの今年度中3月末までの停止を躊躇なく決断すべきだ。旅行業、宿泊業、飲食業、商店街を支援する方法は他にいくらでもある。

グリーンリカバリーができるまで冬眠を

そもそもパンデミックも気候変動も地球の環境容量の限界の表れである。新型コロナウイルスによって安倍政権もトランプ政権も終焉した。いまや「持続的成長」は滅びの呪文である。私たちが目指すべきは、地球の環境容量にまで人類の経済規模を制御した上での「持続的発展」である。

したがって、私たちがポストコロナ(アンダーコロナ、ウィズコロナの時期を含む)に講ずべき回復策は、気候変動対策や生態系保全を通じて災害や感染症などに対してもよりレジリエントな社会・経済を実現する「グリーンリカバリー」でなければならない。

その観点から見ると、Go To キャンペーンは「グリーンリカバリー」とはとても呼べず、むしろ温室効果ガスを増やし生態系に負荷を与える「ブラウンリカバリー」だ。感染拡大と事業者の混乱を招いている実態を見ると、リカバリーなのかどうかもあやしい。

冬の感染拡大が科学的事実なら、私たちは春まで衛生的な環境で冬眠したほうがよいのではないか。多分、春まで冬眠できればコロナは収束ないし終息する。もし、10年ほど世界の経済活動を冬眠させることができれば、温暖化も止められる。 Go To キャンペーンも温室効果ガスを出さない旅行、生態系に負荷を与えない飲食やイベントが実現できるまで待つべきだ。冬眠しながら革新的なグリーンリカバリーの夢を見て、春にはそれを正夢にすればよい。

政府の緊急事態宣言の前に、私は自主的に冬眠宣言をさせていただく。おやすみなさい。

                                (久米谷 弘光)