緊急事態宣言の東京五輪までの延長を   —開催国責任を真摯に果たそう

新型コロナウイルス感染症による死亡者が4月26日に1万人を超え、5月半ばの現時点では1万1千人。感染者は66万人にのぼる。世界の感染者は1億6000万人を超え、死者は333万人である。特に最近はインドやブラジルでの感染が止まらない。

そんな中、東京五輪・パラリンピックの開催へのかすかな希望が消えかけている。7~8割の国民が五輪開催に反対の態度を示し、SNSでは代表選手に反対や辞退を求めるなど、平和な社会、人類の調和を目的とする五輪が、日本国民の分断の種になりつつある。

その原因は、安倍・菅政権の安易な緊急事態宣言の発令と解除の繰り返しにある。ハンマーとダンスの繰り返しではもはや変異によって感染力を増した新型コロナウイルスのまん延は防げない。しかも生命(健康)か経済かが問われている中で、経済優先のハンマー&ダンスでは収束の兆しが見えず、リバウンドのたび感染の波が大きくなっている。

ゴールデンウィーク前後の「緊急事態宣言」や「まん延防止重点措置」は、人流の抑制効果はあったと政府は主張しているが、感染者数の増加は止められていない。5月末まで対象地域を増やして延長されるが、2週間で収束が見えるとはとても思えない。政府自身も緊急事態宣言の発令効果が薄れてきていることを認めている。

宣言下でこそ安全・安心に

政府は、緊急事態宣言を解除できないと東京五輪は開催できないと考えているようだが、すでに状況は逆転している。緊急事態宣言下でなければ安全・安心な五輪は開催できないのではないか。

そもそも安倍首相の福島第一原発アンダーコントロールという虚偽アピールで誘致された東京五輪・パラリンピックだったが、原子力緊急事態宣言はいまだ解除されていない。日本、東京はじめ世界の多くの国や都市が気候緊急事態宣言下にある。そしていま世界中がCOVID-19感染症の緊急事態にあることは間違いない。特に、ワクチン接種が遅れているわが国はなおさらである。

五輪・パラリンピックの開催国としては、本来、コロナ禍の中でも他の国よりも圧倒的に感染者数や死亡者数を低く抑え、ワクチン接種も早めに終え、余裕ある保健医療体制を整えて、選手や観客がむしろ日本に渡航した方が安全と思えるような環境を整えるべきであった。

しかし残念ながら、安倍・菅政権は東京五輪の経済効果の最大化に気を取られて、真摯なコロナ禍対策、とりわけ予防的対策を怠ってきた。

ゲームチェンジャーになるとされるワクチン接種が間に合わず、緊急事態宣言発令の心理的効果も薄れる中、もはや実質的に感染拡大を止めるには検査と隔離という原点に戻った対策を強化するしかないのではないか。都道府県境をまたがる移動の抑制を訴えつつ、主要新幹線駅や飛行場の利用時に抗原・抗体検査またはPCR検査を義務付け、陽性者の隔離措置を行う。感染対策を徹底した宿泊施設、文化・スポーツイベントでの検査と隔離措置を、苦境を凌ぐための各種事業継続支援とともに義務付けてはどうか。学校や職域での定期的な検査と隔離措置も推進したい。実際に検査を受けさせる機会を増やすことで、再度緊急事態の自覚を高め、マスク、手洗い、三密回避などの基本行動の徹底を促したい。

実際の五輪開催時にも緊急事態宣言が発令されているほうが、選手・関係者・観客のルール逸脱行動を抑止できる可能性が高い。五輪の開催、中止にかかわらず、宣言下のほうが人々の生命(健康)も暮らしも手厚く守れる可能性は高くなる。

医療従事者からも五輪開催中止が訴えられるほど状況は厳しい。しかし、東京五輪・パラリンピックの開催国としては、かすかな希望に向かって真摯に最後まで取り組む責任はある。また安易に緊急事態宣言を解除して、虚偽の安全・安心アピールをしてはいけない。