エココミュニティをつくる

おかげさまで、ノルドは2011年5月7日に設立25周年を迎えることができました。
思えば、ノルドが設立した1986年は、チェルノブイリ原発事故が起きた年でもあります。
そして、25周年の年に3.11東北地方太平洋沖地震による福島第一原発事故に遭遇することになってしまいました。

東日本大震災の犠牲者の皆様の冥福をお祈りするとともに、被災者の皆様には心よりお見舞い申し上げます。

チェルノブイリとフクシマを踏まえて

福島第一原子力発電所では、原子力発電史上初めて大地震が原因で炉心溶融事故が発生しました。国際原子力事象評価尺度 (INES) の暫定評価は最悪のレベル7(深刻な事故)。レベル7の原発事故は、チェルノブイリ原子力発電所事故以来2例目です。

1号機、3号機、4号機は水素爆発で原子炉建屋が吹っ飛び、使用済み燃料プールがむき出し状態になり、放射性物質は漏出し続けています。

1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故の犠牲者について、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)など8つの国連機関とウクライナ、ベルラーシ、ロシア各政府の専門家によって組織された「チェルノブイリ・フォーラム」は2005年に約4000人の死者との推計を発表しました。しかし、ここには1988年以降の事故処理作業者やより広い汚染地住民が対象に含まれていませんでした。2006年にはWHOが対象を被災3ヵ国の740万人にひろげた評価として9000人の死者を見積もりました。国際がん機関(IARC)も同年、ヨーロッパ全域に対象をひろげて1万6,000人の死者を推定しています。また、環境団体グリーンピースは9万3,000件を推計し、さらに将来的には追加で14万件が加算されると予測し、ロシア医科学アカデミーでは、21万2,000件という値を推計しています。

このように、チェルノブイリの原発事故による犠牲者数、特に放射線被爆の確率的影響によるものは25年経っても確定することができません。フクシマの犠牲者もまた時間の経過とともに増えていきます。その数を予想することはまだ収束のめどが立たない中で不可能ですが、汚染地域の人口密度や放射性物質漏出の長期化等を考えると、けっして少なくないと思われます。放射線の影響は若い人、特に乳幼児で大きいという事実も耐え難いものがあります。未来を担う人々の犠牲が増え続ける中で、誰がこれ以上原発に依存したエネルギー政策を続けると言えるでしょうか。

地球温暖化防止の一環として原発を推進する動きがありますが、放射性廃棄物の処理処分技術が確立されていないこと、喧伝されている温暖化防止効果は希薄であること、ウランが枯渇性の資源で経済性や持続可能性が ないこと、多くの原子力関連施設周辺に活断層があること、そのほか労働者被爆、放射能漏洩、事故、テロ攻撃、兵器利用など、:原子力発電は生命の脅威につながる問題を多 く抱えています。原子発電や核燃料サイクルは、われわれがめざす循環型社会や持続可能な社会と調和するものとはいえません。できるだけ早期に原子力発電への依存から脱 していくことが必要であり、私たちはすでにそのための基礎的な技術はもちあわせています。

エココミュニティとしての日本再生

ピープルズシンクタンクとして、社会、環境、次世代への想像力をもって人類社会の進むべき方向を示したい。そんな企業理念と希望をもつノルドが数年前からNPO法人循環型社会研究会とともに取り組んでいるのが「エココミュニティの要件」研究です。

「エココミュニティ」とは、「自然生態系と調和して発展する将来世代にとっても維持更新が可能な地域共同社会(Eco-harmonic Renewable Community)」と定義しています。

人類史は、生命系すなわち地球の生態系の歴史のほんの一時期に、その一部として営まれています。自然生態系と調和しうる限りにおいて存続し、その環境収容量の範囲において繁栄が許されます。自然生態系と調和しえない場合は、自然に淘汰される運命にあります。したがって、われわれがめざすべきエココミュニティは3つの原則により形成、維持、更新が図られなければなりません。それが次の「エココミュニティ3原則」です。

  • 原則1: 自然生態系をまもり、活かす
  • 原則2: 環境負荷を減らし、再生可能な資源で暮らす
  • 原則3: 地域内外の人々と助け合える関係を築く

自然生態系と調和するとは、社会や経済を自然生態系に調和させるということです。いわゆる「環境と経済の両立」を意味するものではありません。環境としての自然生態系は、社会や経済の基盤であり前提です。環境に経済を合わせるのであって、経済に環境を合わせるのではありません。自然生態系を人工的に社会や経済に合わせようとすることは、人間の傲慢であり、将来世代にとって維持更新が可能な社会の実現にはつながりません。

このたびの東日本大震災は自然災害の脅威を改めて思い知らせるものでした。自然に対抗し、その力を抑え込もうとする防災には限界があります。自然の力を謙虚に認め、自然災害の危険について歴史をできるだけ遡って丹念に調べ、その上で「自然をまもり、活かす」という原則にそって、危険が大きく自然に返すべきところは返すかたちでまちづくりを行い、できる限りの備えをした上で、いざというときは逃げる訓練をしておく。また、自然生態系のもつ相互補完性や修復力や回復力を真似たレジリエントな防災対策が必要と考えます。

また、「環境負荷を減らし、再生可能な資源で暮らす」という原則は、地球温暖化とフクシマに直面したわれわれにとって、まさに喫緊の課題です。化石燃料やウランなど枯渇性資源への依存から1日も早く脱し、再生可能な資源やエネルギーで生活し、生産活動もその範囲の中で営んでいくことを目指さなければなりません。

そして、「地域内外の人々と助け合える関係を築く」という原則もまた、東日本大震災でわれわれが実感した「絆」の大切さと軌を一にするものです。他地域との流通、交易については、当該地域の人々との共生的、互恵的、持続的な発展が可能なかたちで行われていることによって、はじめていざというときに助け合える関係を構築することができます。また、地域内での「足るを知る経済」の創造、地域の価値や課題、ビジョンの共有と多様な主体の参加と協働が、地域共同社会としてのエココミュニティに欠かせない要件となります。

2013年7月5日

株式会社ノルド社会環境研究所
代表取締役 久米谷 弘光